2013年6月17日月曜日

6.12-13 Zepp Namba LIVE REPORT

極度に制限された空間に、生ギターの6弦の音が響く。


 ステージ中央の長渕を取り囲むようにトーチが置かれ、その炎がギターのボディに映ってゆらめいている。それだけで音楽が鳴り響いているような静謐な世界で幕を開ける。舞台の上にはもちろんドラムセットもなければ、サポートメンバーもいない。しかし目を凝らしてよく見てみると、いつものライブにはないものがある。ギターのアクセサリやドリンクなどを並べてあるサイドテーブルの上にグラスがきらめいている。そしてその中にハーモニカが入っているのが見える。下手側(ステージ向かって左側)に目を移せば、銀色のハンガーラックにシャツやジャケットがかかっていて、その角にキャップとハットが引っ掛けてある。まるで長渕剛のプライベート・ルームに招待されたような親密さが会場中に溢れている。凝った演出を施すのではなく、さりげないしぐさのような心配りでファンクラブ・ライブという名にふさわしい空間を作り上げていることに感嘆させられる。
 曲が終わるごとにギターを替えていく。その姿自体は珍しくはない。しかし、今回は特に曲とギターとの相性にこだわり抜いている。リハーサルの段階から実際に使用している本数の約3倍のギターを試し、スタッフと試行錯誤を重ねて選りすぐっていった。こだわったのは、それだけではない。ギター本来の生の音をより忠実に届けるようミリ単位の調整が連日続いた。たとえば、『かましたれ!』で使っているエピフォン・オリンピックのしわがれたブルースシンガーのような響きを、『パークハウス 701 in 1985』の底の見えない深い孤独を感じさせるような響きを聴けば、その違いは明らかだ。
 そしてギターと同じように、衣装も今回の見所のひとつとなっている。こだわり、というよりも、気配り、と言ったほうがより正確かもしれない。ステージ上のハンガーラックから長渕がその時の気分で洋服をチョイスしていくのだ。そうだな〜、と迷いながら姿見を確認してシャツを選ぶ姿は、かなりレアで微笑ましい。しかしその衣装選びもライブの世界観を構成する重要なパーツだということがやがてわかる。たとえば、純白のシャツに『何の矛盾もない』という組み合わせがそれを象徴している。
 繰り返しになるが、ここには何もない。けれど、すべてがある。
 長渕剛と彼の唄と、そしてファンクラブ・メンバーズ。これ以上幸せな空間は他にない。