2013年7月5日金曜日

7.4 Zepp Sapporo LIVE REPORT

Text by SHINZAN INAMURA(UNIVERSAL MUSIC)

今日の札幌も、例に漏れず開演前からの“ツヨシ・コール”が楽屋まで響いてくる。昨年の”Stay Alive”TOURではこのあと、ロングコートをまとったヒーローがセンター・ステージ中央に忽然と現れた。そうして行われたライブは、圧倒的な熱量を放ち、とてつもない連帯感を生み出した。
そして今回。ステージには明らかに異質なものがあった。胸を高鳴らせるBGMのあと、僕たちは文字どおり、暗闇へと叩き落されるのだ。それは、見たことのない真っ暗闇だ。そして、わずかながらの簡素な照明に浮かび上がったステージに、長渕はギターを持ってフラッと歩いてきた。その瞬間に僕は思った。「ギターと長渕さえあればいいんだ。それだけでいいんだ」と。そして聴こえてくるのは、スリーフィンガーの響きと、長渕の声、ただそれだけだ。よどみのない空間を伝わって僕の耳に届くそれらの音は、いや、耳からではなく、全身の皮膚からまるで浸透してくるかのように、体内に染み入ってきた。弦をはじく一音一音、そして長渕の息づかいまでもが、確かな輪郭で刺さってくる。なんて心地良いんだろう。それはきっと、全てがむき出しだからこその美しさに違いない。派手な照明機材はないが、最小限のライトでも、実に細やかな表情が描かれていく。そうして僕は、歌とギターに対して感覚が研ぎ澄まされ、どっぷりと没入することができた。身をゆだねるとはまさにこのこと。
衣裳も、派手なものはなにひとつない。しかし、丁寧なダメージ加工が施された一点もののブラックデニムは、膝のあたりが絶妙に絞られ、長渕のカモシカのような脚線美を見せてくれる。足元のブーツも、客席からは見えにくいかもしれないが、かなり繊細なデコレーションが施されている。そう、むき出しで、シンプルに見せているが、実に細やかなディテールがそこには存在するのだ。
むき出しのギターと歌は、僕たちを無防備にさせて、そのからだと心にす~っと入ってくる。その感覚がとにかく心地よい。“パークハウス701 in 1985”の「一緒にいることが 結構つまらない」という歌い出しは、個人的に大好きなフレーズだ。一聴すると、ラブ・ソングとは思えない言葉づかい。しかしそこには、愛情と友情、同情などの狭間にある、得も言われぬ感情が絶妙に描かれている。そして、不思議な涙がこみ上げてきた。その時僕の脳裏には、自分を通り過ぎていった女性との出会いと別れの場面が、走馬灯のように巡っている。今日だって、妻や彼女と来ながら、過去の別の女性を思い浮かべていた人が絶対に居るに違いない(笑)そう、この空間は、そういったことが許されるのだ。長渕の数々の歌は、みんなのからだと心に、さまざまなかたちで染みついているだろう。そのことを噛みしめて、再確認して、一曲一曲に向かい合える、そういう楽しみ方がある。つまり、長渕と自分=一対一の関係性が、このツアーの本質なのである。昨年のツアーで、僕たちは揺るぎない連帯を確認し合えた。だからこそ、“個と個”に返ることができるんじゃないだろうか。“交差点”も、“二人歩記”も、“PLEASE AGAIN”も、皆それぞれの人生や思いに投影されて鳴るに違いない。それを今回は思う存分に、むしろ自分勝手に堪能して欲しい。むき出しの歌とギターに、とっぷりと身をゆだねて。